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海外観劇日記

海外(主にイギリス)で観劇したミュージカル・芝居の感想覚え書き

TAKEN AT MIDNIGHT

TAKEN AT MIDNIGHT (Theatre Royal Haymarket)
12/March/2015


チチェスターのミネルヴァシアターで初演のブロダクションがWEにトランスファーしたもの。
2015年のオリヴィエ賞では、ペネロープ・ウィルトンが主演女優賞を受賞し、ジョン・ライトが助演男優賞にノミネートされた。
個人的にも2015年ベスト3に入れたかなり好きな作品だ。
今更だが少し思いを馳せる機会があったので記事にしておく。
下記、あらすじを最後まで説明しながらの感想。


感想

1931年にヒトラーを証言者として裁判に立たせたことがおそらく原因で、後にホロコーストのキャンプに収容されたハンス・リッテンというドイツ人弁護士をご存知だろうか。2011年にハンスを主人公にしたテレビドラマとドキュメンタリーがテレビ放送用に製作され注目を浴びたらしい。この芝居は同じ脚本家の手によるものでハンスの母親イームガートの視点で描かれる。真夜中に突然連れ去られてしまった息子を解放するよう、彼女は手を尽くしゲシュタポのオフィスにもほとんど単身で乗り込んで行く。彼女の戦いは数年に及び、ハンスも拷問と尋問に耐え続けるが、ついにダッハウに移され自殺を図る。

…ということを私は全く知らず、宣伝の「弁護士の息子をコンセントレーションキャンプから救おうと尽力した母の物語」という謳い文句を信じて観劇しにいった。最後の方になるまでどうにかハンスが助かるものだと思っていた。
そうなのだ、彼は助からない。



ホロコーストがテーマの話にしては前半は意外と軽快な雰囲気で、笑えるシーンもあった。芝居のメインは母親とゲシュタポ上官の会話と、息子と同室の収容者の会話で、実際の拷問シーン等はほとんど描かれない。しかし徐々に不穏な気配が色濃くなっていく。セルメイトの1人がいなくなり、最初は親切そうな態度だったゲシュタポ上官は何度と無く繰り返される面会の末ついに怒声を上げる。

クライマックスはダッハウの収容所でようやく面会を許された母子のシーンだ。それまで自分の服を着て過ごしていたハンスはここで初めて、ストライプのユニフォームを身に纏い舞台上に、そして母親の前に現れる。
ドアを開けてハンスが現れた瞬間、周囲で複数の観客が息を飲むのを感じた。先ほどまで笑顔を見せていた青年もこのユニフォームを着せられているということがショックだった。
ゲシュタポ相手でも怖気づかず気丈に振る舞っていたイームガードだが、息子には涙ながらに「もう戦うのをやめて。降伏してヒトラーの望むものを手放して」と訴える。ハンスは涙ながらにそれを拒否する。ここで私もどうしようもないことに気がついた。ああ、もう彼はここから出られないのだ。
昨年上半期個人ベストの記事に「最初からすこしずつすこしずつ芝居を積み上げて、ラストシーンで心を掴んで引き裂かれた想いがした」と書いたのはこのシーンのことだ。落ち着いたトーンで家族や親戚や収容されている人たちとゲシュタポ側の人間を描き、この世界を構成している人たちも皆人間なのだと思わせておいてから、そこに一般的な「ホロコースト」の絶望的なイメージで斬り込んでいくような感覚があった。

見に行って良かった。
ペネロープ・ウィルトンが、1人の母親として、1人の知的な女性として、血が通った人として生きているという印象を持った。オリヴィエ賞受賞も納得だ。
ハンス役のマーティン・ハトソンもよかった。2人の最後のシーンでは涙を搾り取られた。ちなみにハンスは拷問で脚を痛めつけられたという設定で脚を引きずっていたのだが、マーティン・ハトソンが実際に脚を怪我していたことをカバーするための演出だったのではないかと推測している。カーテンコールでは松葉杖で登場していた。
ゲシュタポ上官役のジョン・ライトが何かと褒められているのだが、そして今や私の中の要チェック俳優の1人なのだが!なんと!当時の私は予習を全くしていなかったために彼の台詞が難しく、「慇懃な人だなー」「わーでも何か怒った怖いー怯」みたいな小学生のような感想しか思い出せない。ああ、時間を巻き戻してちゃんと見ておけ!って注意したい。
まあ私が彼を気に入っているポイントは「あんななりでちゃんと怖い」という点に尽きるので、それでいいような気もするのだが。いや、やっぱり良くない。ちゃんと見ておけ!!!

舞台美術には極端な遠近法を用いて、舞台奥にコンクリートの収容所、手前がゲシュタポのオフィスまたはイームガードの自宅という構造だった。
コンクリートの廊下に映る影等の視覚効果が好みだったので、最後にそのシーンの公式写真を貼っておく。

takenatmidnight
(Mark Hayhurst, from curtisbrown.co.uk)


クレジット

作 - Mark Hayhurst
演出 - Jonathan Church
デザイン - Robert Jones
照明デザイン - Tim Mitchell

Irmgard Litten - Penelope Wilton
Hans Litten - Martin Hutson
Carl von Ossietzky - Mike Grady
Erich Mühsam - Pip Donaghy
Dr. Conrad - John Light
Fritz Litten - Allan Corduner
Gustav Hammerman - Marc Antolin
Lord Clifford Allen - David Yelland
SA Officer - Dermot McLaughlin
Hotelier - Christopher Hogben
Hitler's Voice - Roger Allam
(ヒトラーの声をロジャー・アラムがやってたって、たった今気がついたよ!注意力散漫!)
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